『幽遊白書』 「悲壮な決断!!」の巻 感想

今週の心の叫び
泣きました

不親切なあらすじ

あることに気づいた蔵馬は、天沼とのゲーム対決を始めるにあたり、天沼にそのことを教える。
天沼が“ゲームバトラー”に負けると同時に、天沼自身は死んでしまう。そして、仙水はそれを承知で天沼にこのゲームをやらせたのだと。
その蔵馬の言葉に動揺した天沼はゲームに負け、その短すぎる一生を終えたのだった(合掌)。

今週のオアシス

今週の幽遊はキツすぎた。
唯一のオアシスといえば、最初の方に出てきたあの飛影ちゃんの愛らしさだろう(あのカットで喜ばせといて、あの展開とは……)。
飛影ちゃんてば、チャンチャンバラバラ以外の闘いにはまるっきり無関心よね~。おまけにこの子ときたら、なんでこんなによく寝るのかしら(寝る子は育つというけれど……)。

ゲー魔王の死

さて、はっきり言ってあんまり書きたくないのだが、書かないわけにもいかないし、書かずにはいられないという部分も確かにあるので、しょうがないから書こう(……)。
月人くんは私のお気に入りだった。
あの子はちょっと頭がよすぎて、それゆえに周囲から浮き上がってしまっただけの、ごく普通の子供だったのだと思う。
そして、周囲が自分を受け入れてくれないのは、自分自身に問題があるからではなく、周囲が馬鹿なだけなのだと、ごく自然に考えてしまったのだろう。周囲が自分を特別扱いするのなら、自分でも自分自身を特別扱いしてやろうとでも思っていたのだろう。
あの子は負けるのも泣くのも嫌いだっただろうから、負けないためには、泣かないためには、自分がただの子供になることを阻止するためには、ああやって理論武装をし、自分は優秀な人間なのだと、そんじょそこらの子供とはわけが違うのだと、ひたすらに自身に言い聞かせ続けなくてはならなかったのかもしれない。
そして、仙水さんはそんな月人くんの、実に子供らしい安直さにつけいった(仙水さんには能力者を捜し出す能力があるらしい)。
おまえには特別な力があると、おまえは特別な人間なのだと言い聞かせることによって、月人くんの自尊心を満足させ、現状に満足していなかった月人くんの不満を掘り起こし、魔界の扉を開けるという“ワクワクすること”を吹き込み、その好奇心をあおった。
そんな、つけいれられるような弱さを月人くんが持っていたことを、誰も責めることはできない。
あんなに幼い子が、一人ぼっちだけど寂しくないよ、なんて思うわけがないのだから(自分ではそうは思っていなかっただろうけど)。
だけど、月人くんの周囲に、月人くんの“声"を聞いてあげられる人物は存在しなかった。いたのは、そんな月人くんの孤独を利用しようとする仙水さんだけだった。
月人くんは自分の“声”を聞いてもらえたうれしさで、仙水さんにくっついていってしまった。聞いてもらうことと、理解してもらうことの違いが、月人くんにはわからなかったのだ。
あんなに幼くて可愛い月人くんの、そんな孤独な気持ちを考え、私は涙してしまった(ワープロ打ちながら泣いてる私って……)。
桑原くんに“声”が届いたという、その一事だけで救われた御手洗くんのように、月人くんにもその“声”を聞いて、救ってやりたいと思ってくれる人がいてくれればよかった。
御手洗くんは救われ、月人くんは救われなかった。
ゲームだけを友とした“ゲー魔王・天沼月人”は、唯一の理解者と信じた“ゲームメーカー・仙水忍”に裏切られた時、一人ぼっちで昇天してしまった。
「まだ死にたくないよ」
それはそうだろう。あんな幼い子がみずから死を求めるわけがない。彼はただ自分の意にそわない現状をひっくり返すことを望んだだけだ。
蔵馬が言った通り、その現状をひっくり返すということが、他の人々にどのような影響を与えるかを、考えようともしなかった月人くんに、罪がなかったとは言い切れない。
けれど、その罰はあまりにも過酷だった。

蔵馬の不幸

蔵馬は頭がよすぎて、やさしすぎて、強すぎるから、時折、ひどくつらい目にあってしまう。
蔵馬がもうちょっと頭が悪かったら、あんな気づきたくもないことに気づくことはなかったのにと、気づかなかったら大変なことになっていたことを承知で考えてしまった。
「気が重い」なんて簡単な言葉の裏で、蔵馬はあれだけの決断をくだしていたのだと思うだけで、私は悲しくなってしまう。
妖狐であった時の蔵馬ならば、なんの良心の呵責もなく、月人くんを殺すこともできただろう。けれど、人間としての生を選びとった現在の蔵馬にとって、どんな理由をつけようとも、あれは立派な子供殺しであり、抱え込むには大きすぎる罪だった。
自分がやるべき事、やらねばならない事がはっきりとわかるその頭のよさか、そして、それを実行してしまえるだけの強さが、けれど、それはしかたがないことなのだと、割り切ることができないやさしさが、蔵馬にとっての不幸だとしかいいようがない。
あのゲームをやれる者は蔵馬だけだった。ゲー魔王の死と、月人くん自身の死が同一のものであることに気づいてしまったのは蔵馬だけだった。
けれど、幽助や他の者たちに、その過酷な役割をおしつけることができたとしても、蔵馬はきっと彼自身の手でそれを実行した。
自分は罪を抱えても、幽助たちにだけは罪を負わせないと、蔵馬は考えるに違いないから。
蔵馬はいつも幽助にやさしい。
その蔵馬が、声をかけてきた幽助に「大丈夫だよ」とも「気にしないでくれ」とも言うことができなかった。いつものポーカーフェイスをつくりだすことすらできなかった。
幽助を気遣ってやることもできないほど、蔵馬の怒りと哀しみは深く、月人くんの命は重かったのだろう。
蔵馬は静かに怒る。それだけに、これからの蔵馬が心配でしかたない。

哀しいだけです

蔵馬はきっと、月人くんの“声”を聞いてあげることができた。蔵馬ならば、月人くんの知的好奇心を満足させることができたはずだ。
そして、蔵馬もきっとそうしてやりたかったはずだ。
けれど、蔵馬にできたのは、より深い絶望を月人くんに与えることだけだった。蔵馬は最後まで冷たい言葉を、月人くんに与え続けたのだ。
蔵馬は、少しでもいいから、月人くんにやさしい言葉をかけてあげたかったに違いない。「ゲームに負けても、君は死なないんだよ」と救いの言葉をかけてあげたかったに違いない。
そうすれば月人くんは、死の恐怖に脅えることなく、やすらかに永眠することができた。あんな小さい子が涙を流し、「死にたくない」と訴えながら死ぬことはなかった。知らずにすめば、それにこしたことはなかった(実際、月人くんは魂が天に召されただけだったから、なんの肉体的苦痛もなく死んでいったようだ)。
けれど、それでは間に合わない。
タイムリミットまであと2時間(幽助たちは知らないけど)しかないのに、海藤くんでさえ2時間かかったゲームを、なんの手もうたずに始めることはできなかった。
そして、蔵馬は自分のやるべきことを実行し、動揺を表に出すことなく、冷静にゲームをすすめた。胸中、どれほどに乱れていたか察してあまりあるのに、彼の瞳は画面を捉え、彼の頭脳は数字を組み合わせ、彼の指は正確にコントローラーを動かしてしまうのだ。そんなことができる自分が、さぞやうらめしかっただろう。
「オレは負ける気はない」という言葉は「君を殺す」という意味を含んでいた。月人くんに死の宣告を与え、それを実行したことを、蔵馬は後悔しないだろう。自分が選び取った手段が間違っていたとは思わないだろう。
それでも……蔵馬が痛みを感じなかったわけではない。心に傷をつくらなかったわけではない。
私は、今となっては泣くことさえできない月人くんと、どんなにつらくても苦しくても哀しくても、泣くことができない蔵馬のかわりに泣いてあげたいと思った。
そして、しみじみと考えた。
このマンガにはやっぱり“毒”がある。私に楽しい思いばかりを与えてはくれない。私の理想通りに動いてはくれない。
けれど、それがあるからこその『幽遊白書』なんだと(桑原くんが死んだ時に思い知ったはずなのにね。また、冨樫先生にしてやられちやったな~っ、て感じです)。