『幽遊白書』 「宴のあと」 感想

今週の心の叫び
冨樫先生!!
今週号は読まなかったことにしますから、この内容を1年かけて描きませんか?


不親切なあらすじ

……正直、言って、今週のあらすじなんて書きたくないです、私。

終わっちゃったの?

今回、『今週の心の叫び』がかつてない長さですが、これは私の心底、正直な心の叫びでございます(今でも心の中で叫んでいるし、電話でもそう叫んだ(苦笑))。
月曜日に『ジャンプ』を買って、幽遊を読んで……『ジャンプ』を閉じて、本当に……本当に、そう思ったの。
その心の叫びを省略せずに、正確に書くと、「冨樫先生! いきなりトーナメントを終わらせないでよ! 幽助VS黄泉はどこへいったの! 躯VS飛影はどこへいったの! 陣はどこへいった! 凍矢はどこへいった! 修羅くんはどこへいった! いきなりオチをつけないでよ! 読者をどこまでパニックにおちいらせれば気がすむのよ! 本当にもう、せっかく落ちついて幽遊を読めるようになった、と思った途端にこれなんだから! 油断もすきもあったもんじゃないわ、まったく! これ、読まなかったことにしてもいいから……お願いだから、この内容を1年かけて描いてくれないかしら! ああ、それがいいわ、そうして欲しいもんだわ! それにしても、飛影ちゃんはどこへいったのよ!」……ということになりましょうか(で、あまりにも長すぎるので、省略したんですが、それでもあの長さになりました)。
なんか……桑原くんを久しぶりに見て、「桑原くん、高校に受かってたのね。おめでたいわね。きっと、すっごくがんばったのよね。やっぱり、この子はえらいわ」などと、ほのぼのしていたまでは、よかったんですけどねえ……はあ。
それにしても、魔界統一トーナメントは本当に終わっちゃったんですかねえ。
なんだか、まだ釈然としない部分かありましてねえ。
なにせ、先週の終わりが、幽助VS黄泉で、さあ、これからが本番だあっっっ! といったところでしたからねえ(苦笑)。
こんな荒技というか、力技というか、反則技な展開を見せられて、素直に納得できる読者がいるとも思えませんが、それでも、「冨樫先生にまたやられたあ!」とか思ってしまった私って……。
なんだか、ここまで見事にやられてしまうと、怒る前に、へなへなと崩れ落ちて、「冨樫先生ってば、なんてことを……」と、力なくつぶやいてしまいますわ。
本当にもう……冨樫先生ってば、なんてことを……(苦笑)。
私はもう途方にくれて、躯の能カって、結局、なんだったの? 飛影ちゃんは今、どこにいるの? と、クエスチョンマークをとばしまくるのみでした。
今週号を見逃して、来週号を読んだ人って、きっとものすごいパニックよね!(今週号を読んでてもパニックなんだから(苦笑))
でも、結局、魔界の王様は煙鬼さんになったのね。
じゃあ、孤光さんは女王様ね(だけど、黄泉VS孤光戦て、見てみたかったわ)。
煙鬼さんは煙鬼さんなりに、雷禅さまの遺志を継ぐつもりなんでしょうね。
うん、煙鬼さんが大将なら安心できるわ(きっと、幽助より安心できる(笑))。

魔界の扉を開ける者

私、コエンマさまのことを、“えらい人”だなあ、と思ったことはありましたが、こんなに“すごい人”だとは思ってもみませんでした。
仙水のために心中までしようとして、幽助のために父親と霊界を捨てて……この人は、本当に“情の深い人”なんだなあ、と思っていたんですが、まさか、これほどまでに“情の強い人”だとは思ってもみなかったんです。
どちらかといえば、穏やかで、いつも幽助のことをうれしそうに見ている人、という印象があって、本当に育ちのいいおぼっちゃま、といったイメージが定着していたので、まさか、こんなに激しい一面を持った人だとは、思ってもみなかったんです。
「彼はとうとう魔界の扉を完全に開けることに成功した」という蔵馬の台詞を読んだ時に、コエンマさまってば、それほどまでに仙水と幽助を愛していたのね! と思いました。
いや、コエンマさまがただ単に責任感の強い潔癖な方で、父親の悪事を見てみぬふりすることができなかった、という考えもあるでしょうし、実際、そちらの方が正しいのかもしれませんが、本当に素直に、仙水と幽助はコエンマさまに愛されていたんだなあ、と思ってしまったんですよ、私。
コエンマさまは、仙水を傷つけ、追い詰め、あのような運命をたどらせてしまった自分が、どうしようもなく許せなかったんだろう。
コエンマさまは、仙水と引き離されたくはなかったんだろう。
コエンマさまは、仙水と幽助の闘いを止められず、それをみつめることしかできなかった自分の無力さが悔しかったんだろう。
コエンマさまは、幽助を手放すことしかできなかった自分が、とても情けなかったんだろう。
コエンマさまが、あれほどの情をかけていた、仙水と幽助。
その2人の少年と引き離されてしまったみずからの運命を、コエンマさまはコエンマさまなりに呪っていたのかもしれない。
そして、コエンマさまはそんな自分の運命に対して、コエンマさまにしかできない方法で、復讐を果たしたのかもしれない。
コエンマさまは強い人だった。
仙水を失って、どんなにか傷ついただろう。
幽助に魔界に去られてしまって、どんなにか哀しかっただろう。
けれども、そんな深い哀しみと憤りを背負いながらも、コエンマさまはうずくまって、泣いていたわけではなかった。
コエンマさまは苦しみながらも、父親であるエンマ大王の目を盗み、たった1人で膨大な資料を黙々とチェックし、蔵馬の策略に手を貸し、霊界特防隊を懐柔していたのだ。
力づくで魔界の扉を開けようとした仙水。扉が勝手に目の前で開いた幽助。策謀でもって魔界の扉をくぐりぬけた蔵馬。
そして……コエンマさまは、扉を完全に破壊してしまったのだ!
なんというコエンマさまの激しさだろう。
父親であり、絶対的な支配者であったであろうエンマ大王のすべてを否定し、みずからが生まれ育ち、おそらくは深く深く愛していたであろう霊界そのものを混乱におとしいれることを覚悟のうえで、コエンマさまはこのようなことをやってのけたのだ。
そして、何よりもすごいのは、コエンマさまがエンマ大王を否定するということは、その指示に従って動いてきた自分の人生のすべてを、否定することと同じ意味をもっていたに他ならないということだ。
コエンマさまが、「ワシはどんな罪もうけよう」と言ったことがある。
コエンマさまは“罰”ではなく“罪”と言ったのだ。
コエンマさまは、仙水の罪を引き受けると言った。そして、今回も父親の罪を一緒に引き受ける覚悟なのだろうと思う。
自身の人生を否定しても、自身の父親を否定しても、自身の存在意義を否定しても……自分が持つすべてのものを捨て去ってでも、コエンマさまは仙水と幽助を失った運命に復讐したかったのだだろうと、私は思う。
仙水と幽助はそれほどまでにコエンマさまに愛されていたのだと思うと、涙が出てくる。
こんなことをやっても、仙水は戻ってこないし、仙水の傷が癒されるわけでもない。
けれど、幽助を自由にしてやることはできるのだ。
幽助はコエンマさまのおかげで、人間界と魔界……幽助か愛する2つの世界で生きていくことができるようになった。
それだけでも、私はコエンマさまに感謝する。
コエンマさまは自分の力で、幽助を取り戻したのだ。
コエンマさまが、父であるエンマ大王を告発するにあたって、どれくらい悩んだだろうかと考えて……実は、まったく悩まなかったんじゃないか、という結論を出してしまいました。
どういうわけだか、直感的にそう思ったのです。
コエンマさまの仙水と幽助に対する愛情は、父親に対する肉親の情なんてものを、軽く凌駕してしまっていたのではないかと、コエンマさまにとって、それは当然の行動であったのだろうと、私は感じます。
告発は、仙水に対する償いであり、幽助に自由を与えることであり……そして、同時にみずからを解放するための行動であったのでしょう。
コエンマさまはもう自由です。
もう、霊界のために幽助を失うことはないでしょうし、霊界のために幽助に危害を与えるようなことをしなくてもいいのです。
たったそれだけのことでも、コエンマさまにとっては大きなことなのです。
コエンマさまは、これ以上、みすがらの無力さからくる罪を増やすことはないんですから……それだけでも、この告発を行う理由としては、十分だと思うのです。
大きな仕事を終えて、コエンマさまは今、穏やかな気持ちになることができたのでしょうか?
それともまだ、救うことができなかった仙水のために胸をいためているのでしょうか?
それでも……コエンマさまは、コエンマさまにしかできない大任を、きっちりと果たしたんですから、それなりに安堵はしているのでしょう。
私はコエンマさまに「よくやったね。えらかったね。つらかったよね。苦しかったよね。哀しかったよね。でも、貴方は本当にすごいことをやったんだよ。幽助が人間界で生きていけるようにしてくれて、本当にありがとう」と、言ってあげたいです。

桑原家の謎

なんとビックリ! 桑原家の父はレゲエの兄ちゃんだった!(大笑)
いやあ、なかなかシブイお父上でありますが、一体、どういうご職業の方なんでしょう?
案外、霊能力者で、その方面で稼いでたりしてね(ありえる)。
だって、霊界やら魔界に対して、ものすごく理解があるし(ひょっとしたら、幻海師範の知り合いだったりするのかもしれませんね)。
おまけに身長194cm……やっぱり、長身の家系なのね。
桑原くんも、将来はこういうシブイおじさんになるんだろうなあ……楽しみ。
それにしても、いきなりの雪菜ちゃんの洋服姿にはビックリしましたわ。
しかも、桑原家にホームステイとは……。
桑原くんてば、いきなり幸せの絶頂ね(笑)。
幽助は帰ってくる。雪菜ちゃんとは毎日、顔を合わせられる……これって、桑原くんにとって、パラダイスなんじゃないのかしら。
もっとも、同じ屋根の下で暮らすことになっても、それは桑原くんと雪菜ちゃんのこと……その仲が急速に発展するとは、とても思えません。
まあ、桑原くんにしてみれば、一緒に暮らすことができるだけでも、夢のような出来事で、しばらくはその幸せにひたりきっているんでしょうけどね。
がんばれ、桑原くん!
雪菜ちゃんの当面の幸せは、桑原くんにかかっているぞ!(笑)

これから

これからの幽遊って、どうなるんでしょうねえ。
私、かなり不安なんですけど……。
人間=善、妖怪=悪、という図式がひっくりかえって久しい幽遊ですが、ついに霊界すらも、その絶対的な地位からひきずり落とされてしまった。
これはもう、今までの幽遊を完全に否定してしまった、とも受け取れる大事件です。
霊界探偵であった幽助を否定し、霊界探偵として幽助かやってきたことの意味を否定し、すべては意味のないことだったのだと、幽助はへたをすると、ただの弱い者イジメをやっていただけなのだと……そう言われているような気分にさえなります。
蔵馬は「深く考えない方がいいですよ」と言ったけれど……深く考えちゃうぞ、私は!
今までの幽助の苦労はなんだったの?
幽助は何のために戦ってきたの?
一体、今までの幽遊は何だったの?
冨樫先生は、みずからの手で、今まで描いてきた幽遊というマンガを、ある種、きっばりと否定してみせたわけです。
今まで、構築してきた建前を、見事にぶち壊し、どこにも正しいものなんてないんだよ。幽助たちだって、ただ操られていただけなんだよ。と、冨樫先生自身がおっしゃっているような気がしてしかたありません。
私は、以前、“正しさを求めている幽遊キャラなんていないのかもしれない”と、書いたことがありますが、実は冨樫先生自身が、“正しさ”を求めてはいなかったのかもしれません。
では、“正しさ”がないように、“真実”もどこにもないんでしょうか?
私は、それに対してだけは、「NO!」と大声で答えたい。
だって、そんなの哀しすぎるし、虚しすぎる。
少なくとも私は、幽助や飛影ちゃんや蔵馬、桑原くん、幻海師範、その他、たくさんのキャラクターたちの中に、それぞれの“真実”を見いだしたいと思っている。
幽助か正しくなくてもいいの! 飛影ちゃんが間違っていてもいいの!
それが幽助にとっての“真実”ならば、それが飛影ちゃんにとっての“真実”ならば……私はそれを肯定してあげたいのです。
冨樫先生には冨樫先生なりの“真実”がきっとあるのでしょう。
ならば……私はそれを聞いてみたいのです。
冨樫先生は、幽遊という世界の空虚さを、みずからの手で暴いてみせました。
この行動の突飛さに、私はうろたえるばかりです。
冨樫先生は、何を望んで、築き上げてきた世界を壊したんでしょうか?
幽遊という世界の再構築でしょうか?
それとも、まったく新しい世界を築くための前段階として、古い世界を壊してしまったんでしょうか?
私の現在の最大の関心は、まさしくそこにあります。
私は、小さな窓から幽遊という世界(ひいては冨樫先生)を覗き見ては、見えないところまで見ようと、必死に手を伸ばしたり、身を乗り出したりしている、滑稽な存在です。
それでも、私は懸命に身を乗り出し、目をさらのようにして、幽遊という世界を少しでも理解しようとがんばっているのです。
本当に……なんてけなげなんでしょう(泣)。