『Fけん』感想

松井せんせーの久しぶりの読み切り『Fけん』ですよ!
「正道熱血剣道ラブコメ」とか予告がうたれてて、松井せんせーが「剣道」というのも「ラブコメ」というのもよくわからん。
てか「正道」? 「王道」じゃなく?
だいたいタイトルが意味不明すぎるんだけど。「けん」は「剣道」として「F」ってなに?
と、予告だけですでにわくわくしかなかったんだけど、読んでみたら、めっちゃ松井せんせーのマンガだった。
2ページ目ですでにいつものパターンだった。
松井マンガ的にめっちゃテンプレだった。
なるほど「生存報告」だね、これ。

ところでマネージャーちゃん、名前が出てないんだけど、浅野学長のご親戚か何かかな?
だとしたら、あの容姿端麗っぷりもめっちゃ納得がいくんだけど。


「F」ってなんなんだ、と思っていたら、タイトルのところに埋め込まれてた。
 Fetishism ⇒ フェティシズム
 Fixer ⇒ 調停者、もしくは、黒幕
 Female ⇒ 女性
 Fighter ⇒戦士
 Fury ⇒ 憤激
 F cup ⇒ Fカップ
 Fox ⇒ 狐
 False ⇒ 偽
読んだ後でこのリストを見返すと、なるほどって感じ。
てか、「Fカップ」はいるんですか? いるんですね、多分。

そうか~「Fけん」は「フェチ剣道」の略か~。
どこからそんな流派あみだしたんですか、松井せんせー。


ところで、部員たちのフェチなパーツがかぶってなかったからよかったものの、これ重複してたら大変なことにならない?
これだけの狂乱状態で奪い合いになったら大変なことになりそうなんだけど。
まあ、その場合でもしっかり「調教」できる自信があるんだろうな、マネージャーちゃん。


マネージャーちゃんは、生まれ持った美貌をもってすれば、なんでも手に入れられるのかもしれない。
男性たちが自分のために、なんでもしてくれるのかもしれない。
でも、彼女が望んだのは、自分だからこそできることで、誰かに何かをしてあげること、だったんだよね。
かわいい女の子という部分を抜きにして、誰かに必要とされたい、という普通のことを望んだだけなんだよね。
そう願っていても、彼女の言動を下心も偏見もなくとらえることができる人はいなくて、そういう存在を求めた結果、たどりついたのが、あの剣道部だったわけね。

剣道部員たちは素直に、彼女が与えてくれるものに耽溺し、彼女の期待に応えてくれた。
彼女の喜びはとてつもなく大きかったんだろう。
その喜びがところどころにあふれていて、ああ、かわいいなあ、と思った。
富士くんがちょっとよろめいちゃったのも、きっとそういうとこなんだろう。
「ラブコメ」というのは、男の子が女の子の中に「かわいさ」を発見する、というのがメインイベントなとこがあるので、なるほどこれはラブコメなんだよ。


部員の試合をはらはらと見守り、その勝利を無邪気に喜ぶ。
彼女が欲しかったものはそういう普通の体験だったのに、それがとてもむずかしいことになる、というのが彼女の不幸。

だいたい「私と帰れば男関係のトラブルに必ず遭う」ってどんだけ人生ハードモードだよ。
なんかよくわかんない方向にこじれた性格になるのも当然だよ。

いろいろズレちゃってるマネージャーちゃんだけど、行動原理は「誰かの役に立ちたい」というシンプルなもので、いろいろギミック満載であっても、ストーリーは意外と普遍的なところに落ち着く、というのがとても松井せんせーらしい。
なんかにこにこしちゃう。


あと、みつからなかった富士くんの「執着」先が「正しくありたい」だったってのは、ものすごく納得だった。
なるほど「正道」に執着するのなら、マネージャーちゃんの「邪道」は入る隙がないな。
だからこそ「あの優勝旗にフェチってみようか」は富士くんに対する指導としては正しいのね。
「正道で勝ちたい」を、勝つことに執着させる、に変換できるから。


で、なんであの剣道部はめっちゃ熱心に練習してたのにそんなに弱かったのか、という話に戻ると、やっぱり勝利に対する執着が薄かったんだろうな、ということになる。
マネージャーちゃんは剣道部員たちのマジメさや正しさを好ましく思っているけれど、それだけでは勝利はもぎとれない、というクールな判断ができた。
剣道部員たちの敗因は、マジメにやってさえいれば報われる、というある意味、世間知らずな考えで、マジメさだけでは勝てない、という彼女の判断は正しいと思うんだよ。
「足りないものを私が補填してあげよう」という親切心から起こした行動はアレだったけどね。
あの部員たちちゃんと社会復帰できるのかな。大丈夫かな。


『魔人探偵脳噛ネウロ』は「食欲」、『東京デパート戦争体験記』は「物欲」、『暗殺教室』は「承認欲求」、そしてこの『Fけん』は「執着」……松井せんせーのマンガには多くの「欲望」が描かれる。
そして、「欲望」は常に肯定される(犯罪までいっちゃうとさすがにマズいが)。
求めることがどれだけ苦しくても、周囲からバカにされることでも、それを満たすために動くべきだ、と。

そんなことを考えているので、この読み切りを読んで、松井せんせーは変わらずにマンガを描き続けてくださっている、というこのに、とても安心したのです。
次がいつになるかはわからないけど、年単位くらいの覚悟で気長にお待ちしております。