『魔人探偵脳噛ネウロ』第182話 幸【しあわせ】 感想

今週の弥子ちゃんの好物は「アロワナのバター醤油炒め」……こんなとこでまで読者を泣かせる気ですね、松井センセ。

自分は「シックス」の「奴隷」の一人だったと告白した本城博士。
とゆーことは、チー坊の存在を「シックス」に教えたのも本城博士なんだろうな。
笹塚さんと吾代が二人とも本城博士にいきついたのはただの偶然ではなかったんだ、やっぱり。
笹塚さんは本城博士から「シックス」犯人説をほのめかされていた。
とゆーことは、釣りをしていた時に魔人様に話をきいたのはただの補強で、あの時点ですでに笹塚さんは復讐の準備を着々とすすめていたんだな。
ちょっとだけ魔人様をうらんでました、ごめんなさい。

娘を殺した犯人を知っているけど殺す機会がめぐってこない、と言っていた本城博士。
本城博士にとって犯人は「シックス」ではなく自分自身で、殺したいほど憎んでいる相手も「シックス」ではなく自分自身だったのか。
娘を死においやったことに絶望しながらも、「シックス」への忠誠心はまったくゆらいでいなかった、ってのが本当に怖い。
「奴隷」からすべてのものを徹底的に搾取する「シックス」。
そして、差し出すものが大事であればあるほど、「シックス」への忠誠心はより強固になってゆく。
それはものすごくおかしなことだと思うんだけど、なんかものすごく納得できるような気がしている。
う~ん、なんだろうな。
失われた分だけ、「シックス」の入り込む余地が広がってく感じなのかな。
ホントにこれだけ徹底した悪役ってのは他にないよ。少なくとも私が読んできた物語の中には存在してない。

けれど、本城博士は「シックス」に何もかもを持ってかれたというわけでもない。
自分の行動を死ぬほど後悔するという心が残っていた。
「シックス」がわざと苦しむ余地を残して、それを見て楽しんでたんじゃないか、という気がしないでもないけど。
本城博士はなぜ死にたくても死ななかったのか。
死ぬのが怖かったとかいうことではないような気がする。
単純に「シックス」の許可がでなかったからなのかな~、って。
そして、弥子ちゃんの追求により、本城博士は死ぬ口実を得たんじゃないかと。
「シックス」の秘密を守るため、という理由でテラもチー坊もジェニュインもみずからの命を絶った。
そして、弥子ちゃんは意図せずして、本城博士に同じものを与えてしまった。
本城博士はいつでも死ねるようにあの注射器を持ち歩いてたんだろうな。
そしてついに待ち望んでいた自分を殺す機会はめぐってきた。
それは弥子ちゃんのせいではないけれど、弥子ちゃんがトリガになってしまったのは確かだ。

笹塚さんの死によって深く傷ついた弥子ちゃん。
そこにダメ押しのように襲ってきた本城博士の死。
HALをDELETEしたことにさえ涙した弥子ちゃんが、生身の人間が自分に追い詰められて死んでいく様を見せつけられることに傷つかないわけがない。
髪をかきむしる弥子ちゃんの姿に、HAL編でのヒグチを思い出した。
受け入れたくないものを、全身全霊で拒絶しようとする姿。
本城博士が悪意で笹塚さんを追い詰めたのなら、弥子ちゃんは本城博士を憎むという形でそれを受け入れられたのかもしれない。
だけど、本城博士は泣きながら謝っていた。
そこにいるのは生きることにくたびれ果てた哀れなおじさんだった。
あらゆる意味で「ホーム」をロストしてしまった、死に場所を求めてさまよう亡者だった。
そんな存在を憎むことができるような弥子ちゃんじゃないんだろうな。

今回の弥子ちゃんの姿にめっちゃヘコんで、どうしてかなあ、と思って考えたんだけど、私の中で弥子ちゃんはものすごく「健全」なキャラだったんだな、という結論に達した。
「健全」っていろんな意味があるけど、この場合「毒気がない」って感じ。
毒気吐きまくりなキャラが大量発生しているこのマンガにおいて、弥子ちゃんには毒気がない。
だからこそ、このマンガの中でヒロインとして立っていられたんだと思う。
毒に侵されない強さ。
それこそが弥子ちゃんの最大の武器だったんじゃないかと。
だけど、前回と今回で弥子ちゃんの心に何かが浸み込んでしまったような気がする。
なんかそれがとてもイヤな感じがしたんだ、きっと。
この毒気を呑みこんでなお清浄さを保ち、清濁併せ呑む存在になっていく、ということなのかもしれないけど。

なんか、葛西のことなんかどうでもよくなってきた……(なげやり)。
読むのに覚悟がいるどころの騒ぎじゃないよ、ホント。
魔人様に弥子ちゃんを救って欲しい、と心の底から望んでいる。