『アンデッドアンラック』(No.045 不運弾) 感想(理を超える)

表紙はアンディのほっぺにキスする風子ちゃん。
前回のラストでキスして、今回の表紙でキスして、今回の1ページ目でもキスをしているという念の入れようである。
戸塚先生、ありがとうございます!


頬へのキスを「特殊接触」と表現しているヴィクトルがちょっとおもしろい。
いや、「特殊」な「接触」なのはわかるけど……。
まあ、ヴィクトルがリップみたいに「チューしてる!!」とか言い出したら、ちょっとおもしろすぎるもんな。


アンディの新技というか風子ちゃんとの合体技「不運弾」は、指先に魂を移動させて、指を敵に飛ばし、「不運」を自分ではなく敵に与えるというもの。
これまでは、アンディ自身がつっこんで道連れにしてたけど、これならアンディ本体はダメージくらわないっていうのがいいよね。
アンディ自身が回復するまで無防備状態になっちゃうし、その間、風子ちゃんを守れないというのが問題になってて、それで「紅蓮弾」は封印されていたわけだし。

ていうか、「不運」は接触した肉体めがけて落ちてたんじゃなく、接触した人の魂に落ちてたのね。
ということは、ヴィクトルの別人格がアンディではなく、ヴィクトルの肉体にふたつの魂が入りこんじゃってるってことか。
すると、肉体を用意できれば、アンディとヴィクトルが別々に生きていくことも可能?


アンディとヴィクトルがふたりとも電車にぶつかり頭がとんでく絵がめっちゃシュール。

アンディがいつも頭部から再生していたのは、生きるために必要なものは脳、と認識していたから。
そうか、てっきり、あのカードが抜けるのが問題なのかと思ってた。
で、よくみると、頭が飛ぶ寸前に、カードを引き抜いて手で持って、戻ると同時に挿しなおしてるのね。


「脳で思考できないことが死だと認識していたからだ」
「……くだらん先入観だ」
でもヴィクトルもはじめのうちはアンディと同じ認識だった。
でも、それをあらためるきっかけをくれた人がいた。
アンディに風子ちゃんがいるように、ヴィクトルにはジュイスさんがいた。

回想に出てきたの、「性」のルールが追加される前のジュイスさんとヴィクトルだよね、多分。
ジュイスさん男の子っぽくて、ヴィクトルはあまり変化ないけど身体がだいぶ薄い。
ジュイスさんは元々はこういうくったくなく笑う、明るい人だったんだな。
長いこと戦い続けて、リーダーとして戦い続ける中で、クールビューティーな感じになったんだろう。
ということは、マンガ描く手伝いをする、と言い出して腕まくりしてたジュイスさんの方が、わりと素に近いのかな。

「絶対キミを忘れない」
ジュイスさんはヴィクトルのことを忘れなかった。
でも、今は距離を置いている。
ジュイスさんはヴィクトルと意見を違えて別々の道を歩むと決めたのか、それともヴィクトルの方から飛び出したのか。

そういえば、アンディはユニオンに捕まっていた10年間で会った否定者はニコとジーナさんだけ、みたいなこと言ってたんだよね(「不壊」は存在だけ知ってた)。
つまり、ジュイスさんはアンディの前に姿を現さなかった(監視カメラとかで観てた可能性はあるけど)。
アンディの中からヴィクトルを出そうとしなかったんだな……。
ジュイスさんはヴィクトルだけでも神との戦いから逃がそうとしてたのかもしれない。
ヴィクトル出したら抑えられる人がいないからやらなかっただけかもしれないけど。
ああ、でも、50年前はジュイスさんはユニオンにはいなかった可能性もあるのか。見かけ通りの年齢ならそうなる。だけどそれだったら誰がリーダーやってたんだ?
ジュイスさんがどういう形でループを乗り越えているのかわからないんで、可能性を考えだしたらキリないな。


「人は魂で生きている」
「そういう世界だと俺は信じる!」
「だからどう滅びようと、俺はどこからでも蘇る!!」
このアンディの高らかな宣言がの力強さ。
風子ちゃんがヴィクトルに向ける、戦う意志の強さ。
熱い! めっちゃ熱い!
アンディは「不死」であることを完全に受け入れ、この能力で自分が望むすべてを手に入れる、と決めたんだな、って思った。

安野先生の「キミ達は理に縛られすぎだ。こうだと思い込むあまり、自分でさらに理を設けてしまっている」という言葉はこういう意味だったんだな。
脳がなくなったら自分ではなくなると思い込んでるから、頭からしか再生できない。
脳が滅んでも魂は滅びないから、どこからでも再生できる。
縛られることをやめただけで、こんなにもアンディは自由に動けるようになり、風子ちゃんをもっとしっかり守ることができるようになった。

ジーナさんが、なんでそれが「不変」の能力で可能になるの、ってくらいいろんなことができたのは、ジーナさんが理に縛られていなかったから、なんだろうな。
能力ゆえにつらい道を歩んでいたけれど、元々は自由な魂をもった人だったんだな。

「否定者はもっと強くなれる」
このアンディの宣言こそが、安野先生が望んだ「神の手から離れた最高のエンド」に至るトリガーなのかもしれない。
アンディの変化はきっと、他の円卓の否定者たちをも強くするから。


アンディと風子ちゃんの後ろに落ちてくる飛行機が描かれていて、とどめを刺しにきた、と思ったんだけど、それがユニオンの飛行機で、なんでわざわざユニオンなんだ? と思ってたら、まさかのアンディの封印カプセルがころげだしてきた。
そういえば1話で、これを持ったユニオンの人たちが登場してたよ!
そうか、アンディと風子ちゃんが出会った日に、ユニオンの人たちが現れたんだから、ちょうどこの時間帯に封印カプセルもって飛行機移動しててもおかしくないんだよ。
なるほど~。ヴィクトル攻略の伏線は1話にあったのね。

死なないし、痛みというノイズも無視できる「不死」にとっての「不運」は、死ぬことでも、傷つくことでもない。
封印されるという不死者にとっての「不運」が、アンディの小指が当たった途端に現れた。
これは、新しいパターンの「不運」。
これは風子ちゃんのルールの適用範囲が広がったということ?


ヴィクトルは頭以外からも再生できるんだから、封印される前に逃げることもできたような気がする。
でも、あえてそれを受け入れたんじゃないかな、って。
「そういう事か…ジュイス…」
自分とジュイスさんは神を倒すという大望を果たせないまま別れてしまったけれど、アンディと風子ちゃんになら大望を託せる、と期待してくれたんじゃないかな、って。

封印カプセルをひざにのせて、申し訳なさそうな顔をしている風子ちゃん。
憎くて敵対したわけじゃないもんな。
それに、ヴィクトルの記憶に許可なく踏み込んだのは風子ちゃんの方だし。
でもまあ、問答無用で風子ちゃんの魂を殺そうとしたんだから、反撃くらってもしかたないよね。


記憶の本の中、という特殊環境でなければかなわなかったアンディVSヴィクトル。
アンディだけでは勝てなかったのは明らかだし、ヴィクトルはまだ底をみせていなかったように思える。
でも、ヴィクトルは納得して負けてくれたんじゃないかな。

とりあえず、アンディのパワーアップには成功したわけだけど、この後はどうなるんだろう。
風子ちゃんはあらためてアンディが生まれた経緯を探りにいくのか、それとも、アンダーに襲われている安野先生が現実に引き戻すのか。