『アンデッドアンラック』(No.047 九能 明) 感想(ボクを伝えろ)

過去編が終わり、話が現代に戻った。

対峙する安野先生とリップ。
リップは、オータムを追ってたらアンディと風子ちゃんと一緒に安野先生が現れたので、ユニオンの関係者だと思って安野先生を攻撃してるのかと思ってたんだが、安野先生が未来を知ってると知ってて攻撃してるのか。
なんでわかったんだろうね。
タチアナちゃんが『君に伝われ』を読んでたから、そこからビリー様に伝わって、ビリー様もジュイスさんと同じことに気づいたのかな。

安野先生、左手をなくしても、「左手なくてもマンガは描けるし!!」とか言ってたけど、右手までまでバッサリいっちゃって、ヒエってなった。
隻腕でもだいぶしんどいのに、無腕になっちゃったよ。
しかも、安野先生、腕なくなっても、まったくひるんでないんだよね。
覚悟がきまりすぎてる。


安野先生は子供の頃からマンガ大好きっ子で、お母さん大好きっ子だった。
そしてある日、Gペンの形をしたアーティファクトを拾う。

「最初に触れた者はその回のループの過去と未来を全て見る事ができる」ということは、誰かがあのアーティファクトを奪っても、ただのGペンでしかないってことか。
だけど、ループのすべての記憶、ってものすごい量じゃない?
パニックじゃない?
それをワクワクですませるのすごいな。
安野先生がアーティファクトに触れてもなんともなさそうなのは、すでにGライナーによって大量の映像をみせられてるから、今さらショックを受けないってことなのかな。

「それと同時に否定者にも選ばれた」というのは、ものすごい偶然なのか、アーティファクトに触れた者は否定者になりやすくなる、とかいうことがあるのか。

明くんの落書き、おなじみのキャラが散らばってるけど、「バック」だか「パック」だかってのは知らないキャラだな。

明くんの否定能力は、強制発動型。
「常時、彼の言動行動及びそれで起こった外的変化は自身以外の生物に感知されない」
否定者はどれもしんどいけど、特に強制発動型は普通の生活ができないものばっかり。

明くんとぶつかった男の人がすり抜けたのは、男の人はぶつかって、からだが揺らいだかもしれないけど、揺らいだことさえも感知できてないから、結果としてすり抜けたみたいな状況になってる、ってことなのかな。
生物に感知されない、ってことは機械には感知される。たとえば、自動ドアは普通に開く、ってことなんだろうな。

それにしても、風子ちゃん、タチアナちゃん、チカラくんと、能力のために両親を死なせてしまった、というパターンの後に、親は生きてるけど、生きてるとわかってもらえない、というのが出てくるとは。
どっちの方がつらいか、とか比べられないよな。

風子ちゃんの、誰かが覚えているのなら死んでない、という考えは、アンディを救ったけれど、明くんは生きているし、お母さんも覚えているからこそツラいんだよね。
いっそのこと、母親が自分の存在を忘れてくれてたら、明くんもここまで苦しいことにはならなかったんじゃないかな。

「どこにいるの…」「いるよ…」
「生きてるの?」「生きてるよ」
会話は一方通行にしかならない。
お母さんにとっては、息子は行方不明。それこそ霞のように消えてしまった。
「大好きな漫画が沢山…描けてますように…」と泣く母親の周囲に、明くんが描いた絵が散らばってるのが悲しい。

明くんが家を出たのは、こんな状態の母親と一緒にいるのがつらすぎたからなんだろうな。
こんな状態で生きていてもツラいだけだから死ぬか、となるのも当然だよなあ。

でも、明くんにはアンディと風子ちゃんがいた。
「この能力から逃げず最期まで闘った」だし、「オレの攻略本にはBADエンドしかのってないよ」とも言ってたから、このループではやっぱり風子ちゃんは負けるんだな。
アンディは死なないはずだけど、風子ちゃんが死んだらアンディも弱ってからだを乗っ取り返せるってヴィクトルが言ってたから、アンディは死んだに等しい状況になったんだろう。


明くんが隣に座ってる人のハンバーガーをかじってる絵があるけど、ああでもしないと食事ができないのか。
認識してもらえないから、買い物ができない。そもそもお金が稼げないんだもんなあ。
服も廃棄されてるけど着られる状態のものを拝借してるのかもしれん。
住むところは空き家とか旅館の空き室とかにもぐりこんでたのかな。
安野先生の家、廃屋っぽいけど、放置された家に無断で住んでるのかもしれん。

そういうのって、かすめとられた相手は認識していないので、ある意味、被害者はどこにもいないんだけど、普通に良い子だった明くんにとっては、罪悪感を克服するのも大変だっただろう。
そういえば、安野先生、億単位で稼いでるはずだけど、それはどういう扱いになってるんだろう。

ところで、安野先生の髪がばっさばさなのは、切ってくれる人がいないので、邪魔になったら自分で適当にカットする、ということをやった結果なのかも。
この漫画、髪を切れないキャラがなにげに多いな。


誰ともコミュニケーションが成り立たない状態で、それでも明くんは生き続けた。
まだ生まれてもいない風子ちゃんと、風子ちゃんにまだ出会っていないアンディを心の支えに。
漫画を描き続けていて欲しい、と願う母親のために。
いつか、ユニオンのみんなの物語を描くために。

ところで、ユニオンの集合絵、亡くなってるジーナさんとボイドの顔が描かれてなくて、離脱しているビリーが横顔で、他がみんな正面を向いてるのはわかるんだけど、なんでトップくんの顔があからさまに隠されてんの?
不穏でしかたないんだけどっ!


誰にも読んでもらえないとわかりながら描いた投稿作『君に伝われ』。
適当につけたペンネーム「UNKNOWN」=「安野雲」。
しかしそれは、大賞を獲った。
「連絡先が書かれておりません」になったのは、どうせ読まれないと思って書かなかったのか、書いたけど連絡先は「九能明」が書いたので認識してもらえなかったのか。
ここで明くんは、「九能明」以外の存在としてなら他者に認識される、ということを知る。

この時の明くんの喜びはどれほどのものだろう。
誰とも関われないと覚悟して生きてきたけれど、そこから抜け出せる。
この世界に存在することができる。
しかも、大好きな漫画を通じて。

そしてその漫画は母親にたどりつくところまでいった。
それが息子のものだとわからないままで。
まあ、わかった途端に、読めなくなるんだけどね……どう考えてもこの設定ひどいな……。

お母さん、髪が白くなって、入院してるけど、休日には息子を探しまわって、無理をしたんじゃないかな。


ジーナさんがニコに『君に伝われ』をみせてるシーンがあったけど、ジーナさんもファンだったんだね。
日本のJK文化大好きジーナさんが少女漫画大好きでもおかしくない。

ジュイスさんが『君に伝われ』を知ってたのって、ジーナさんに勧められたことがあったんだけど、興味ないから断ってて、ジーナさんが亡くなった後、遺品整理をするために部屋に入ったら『君に伝われ』が置いてあって、そういえば勧められたな、と読んでみたら「あれ?」ってなったんじゃないかと妄想している。


ルールには実は抜け穴があるぞ、と気づいた明くんは、いろいろと試行錯誤して、どういう条件なら「安野雲」になれるのかを把握したんだろうな。
そして、「九能明」と「安野雲」の使い分けができるようになった、と。

つまり、これまで作中で描かれていた安野先生は、「安野雲」というキャラだったんだな。
やたらハイテンションというかオーバーリアクションなのも、そういうキャラを保っていないとアンディと風子ちゃんに認識してもらえなくなるから、と思うと、ちょっとあざといというかわざとらしいというか、な安野先生の振る舞いはめっちゃ納得できる。

元々、髪が黒かったのに、なぜか白くなってるのも、ジャージにわざわざ「安野雲」ってタグはってるのも、「九能明」と「安野雲」というキャラを差別化しやすくするためかもしれない。


アンディと風子ちゃんが帰還して、クロちゃんが涙目なのかわいい。
風子ちゃんも涙目なのは、風子ちゃん的にはifのアンディと別れたばっかりだからなんだろう。
これで、安野先生がここでふんばらなければならない理由はなくなった。

「彼らがいるから…オレは生きてる!!」
「だから今度はボクが助けるんだ!!」

「オレ」が「ボク」になる。「安野雲」が「九能明」になる。
ということは、ここから安野先生、誰にも認識されなくなる?


風子ちゃんから電話をもらった時、明くん、本当にうれしかっただろうな。
でも、「安野雲」でいなければ会話が成り立たない。
だから、あんな挑発的ともとれる発言をしたんだろうな。

子供が青年になり、連載を20年も続けたんだから、アンディと風子ちゃんの存在を知ってから30年くらい経ってるはず。
それだけの長い年月、心の支えにしていた人物と、ようやく接触できたんだから、内心、喜びと興奮ではねまくってたんじゃないかな。

安野先生、腕を犠牲にしても笑っているというメンタルがだいぶこわかったけど、ここに至るまでの経緯を知ると、アンディと風子ちゃんのためなら何を失っても惜しくない、という想いの切実さが伝わってくる。
連載を完結させた今、失って惜しむものはもうないんだろう。
てか、安野先生の死亡フラグが強固すぎてこわいんですが……。


『アンデッドアンラック』という漫画の1コマ目は『君に伝われ』のラストページだったけれど、実は『君に伝われ』の1ページ目こそが、BADエンドにならないアンディと風子ちゃんの物語の1ページ目だったのかもな……。

そして、今になってみると『君に伝われ』というタイトルめっちゃ重い。
伝わらないと思っていた。
でも『君に伝われ』というタイトルをつけた。
そうしたら伝わった……母親にも……風子ちゃんにも……。

そして、誰にも知られなかったはずの「九能明」の存在が、世界を救うかもしれないんだ。


ところで、公式Twitterさんのこの風子ちゃんの「懐かしかった…」が、なんかじんわりくる。
で、アンディが「…そうか」とだけ応えるのがまたいい。
ifのアンディは海苔を破壊された経験はないはず(←でも見慣れている)なので、これは現実アンディにしかわからないセリフなんだな、と思うと、ifアンディがちょっとせつない。