『逃げ上手の若君』(第69話 破魔1335) 感想

頼重と時行を背に、声を挙げる保科と四宮。
保科にとっては、自分とこの領地を取られたうえにそこに残されていた領民たちが奴隷扱い、さらには使いつぶされて盾扱いなわけで、武士としてはものすごい屈辱だろうな。
でも、時行が死に急ぐのを止めてくれたから、この戦に参加することがきでた、ということでもあるんだよ。


「全軍突撃か。焼討無しでこの戦車に挑むとは無謀な賊じゃ」
国司自身も、この戦車は焼討には弱い、という認識があったんだな。
だから、それをさせないために「防御装置」を事前にとりつけていたわけだ。
本当に、人道に悖る、という点以外は完璧に考慮されている。

それにしても、ここんとこ頼重がずっとかっこいいんだけど、どういうこと?
まあ、身内以外の信者の前では常にこんなモードなんだろうけど。


あのくねくねした剣は戦うのに向いてないけど、非日常感を演出し、人間っぽさを打ち消して現人神感を出す効果があるのね。
総大将が人を斬る必要はないから、使い物にならなくてもいいのか。
それはそれで普通の剣は普通以上に使いこなせるのが頼重の怖いところ。


真の総大将のはずの時行を突撃させる頼重。
それは自分の神力と、時行の逃げ上手に絶対の自信があるから。

「当たりませぬ」「当たりませぬ」「当たりませぬ!」
矢が飛び交う中を、頬を染めて楽し気に走り抜ける時行がちょっと……というか、だいぶ変態っぽいんですが……。
いや、うっとりしすぎだろ。
色気がありすぎだろ。

そしてまさかのパルティアンショット再び。
矢がかすっただけで国司がえらいことになってたので毒矢か? と思ったら破魔矢だった。
頼重すごいな。

破魔矢とはだいぶファンタジーだけど、それを言ったら尊氏が国司を操ってる技(?)の方がファンタジーだろ! となる。
でも、頼重は「破魔矢」と言ったけど実際は毒矢だった、もありそうな話ではある。


ここで、四宮がサポートして、保科が首を落とす、という展開が熱い!
時行が片を付けるんじゃなく保科に、というのが良いよね。
時行は保科に領地をあきらめさせたから、それに対する見返りをちゃんと用意する、というのは松井せんせーらしいバランスの取り方のように感じる。


国司清原はいろいろなことを間違えたのかもしれない。
でも、あの時代に、あの身分で生まれて、尊氏たちに目を付けられて、他に道の選びようがなかったようにも感じる。
あれだけ残虐なことをしても、良心の呵責をおぼえない状態にさせられていたのは、幸運なことだったのかもしれないな。


ところで時継の「私の影の薄さを甘く見たな」は笑えるけど泣ける。
で、それに対して天狗が「恐るべき影の薄さ」って真顔でおののいてるのがまた……。
現代に生まれていれば幻のシックスマンになれたかもしれない。

「見えないのは互いに同じ」と言っても、時継は眼でみてるわけじゃないらしいから、同じ条件ではないだろう、と思ってたら、天狗はまんまと玄蕃の罠にひっかかった。
良かった。玄蕃にも出番があった。

「面白いな。戦場で人を騙すって」
これまで、時行のそばからなんとなく離れ難い、くらいの理由でくっついてきてて、ここからの大戦につきあう理由が薄かった玄蕃が、戦場に身を置く理由をみつけた。
ちょっとうっすらした理由ではあるけれど、「面白い」というのは玄蕃を動かす理由としては納得かな。
命がけだからこそ面白い、というのは賭け事好きな玄蕃が考えそうなことではあるし。

玄蕃は大義とか忠義とか、そういったものでは動かない。
「おもしろそう」や「楽しそう」なら動く。
でも、いざとなったら時行のために身を捨てて動きそうで……ちょっとこわい。