『呪術廻戦』(第166話 東京第1結界・6) 感想(眩しい虚無の内で生きる)

ジャッジマンが「有罪」「没収」「死刑」って宣言してるとこの、当惑してる日車の表情がなんか良いな。
これ、「えっ? それ認めちゃうの?」って感じかな。

「死刑」の宣告に伴い、日車には「処刑人の剣」が日車に与えられ、それで斬られた人は例外なく必ず死に至る、か。
「必ず死に至る」ならそれって「必殺」なわけで、日車の領域展開は「必殺」は付与されてないんじゃなかったか? と思うわけだが、領域に取り込まれたら必ず死ぬ、とかじゃなくて、裁判もどきをやって、ジャッジマンが手を下すわけではなく日車が死刑執行人をやらなければいけないとか、そういういくつかの手順をしっかり踏まなければいけない、ということを考えると、呪術的には「必殺」の定義から外れるのかね。

てか、この領域内では、ジャッジマンは検事と裁判官を兼ね、日車は死刑執行人なのね。
弁護士的な役割をしてる存在がいなくて、被告は自分で自分を弁護しなければいけない。
だけど、渋谷事変の件で、虎杖は自分を弁護しなかった。

伏黒に頼まれたことをやりきらないと、とか、五条先生を助けないと、とか、生き延びなければいけない理由がなかったら、虎杖は無抵抗で「処刑人の剣」に斬られていたかもしれない。


裁判官になる道を断り、弁護士として人の心に寄り添って生きていこうとしたけれど、そこで得た結論は「人は皆!! 弱く醜い!!」だった。

虎杖が宿儺の罪は自分のものと抱え込んで生き続けて、それで虎杖は何を得られるの?
それは、このマンガを読んでいて、常にひっかかってることだった。
虎杖は何も得られなくていい、と思ってるのかもしれないけど、それでも虎杖には「自分は生きていてもいいんだ」と思って欲しいんだよ、私は。

「その先には何もない!!」
「目の前の闇はただの闇だ!!」
「明りを灯した所で!! また眩しい虚無が広がっている!!」
このセリフは、虎杖が好きでこのマンガを読み続けている私に、ド直球の火の弾を投げつけてきたな、って思った。
いやもう、今のままだと確実にそうなるだろうな、ってめっちゃ痛いところをツッコまれた感がある。


ところで、椅子をバラバラ投げながら服を脱ぐとか、虎杖はあいかわらず身体能力がすごいな。
そして、その虎杖の足払いを跳んで避けた日車もすごくない?


ジャッジマンから提出された証拠は、開封しなくても中身わかるのか。
だから、虐殺を行ったのは宿儺であって虎杖ではない、と日車は知っていた。
でも、虎杖はなんの迷いもなくその罪を認めた。
だから冒頭で、日車はあんなに戸惑っていたのね。

虎杖が「俺はやってない」と言っても、それは嘘でも言い訳でもない。
むしろ、そこらへんの事情を強く訴えるべきだと思う。
だって、法律の専門家である日車が「オマエは殺してない!!」と、断言する事情だぞ、それは。


「何故だ!! 何故!!」のコマの虎杖の、しっかりと開かれた目。
それに対して、日車は目を閉じている。
きっと、眩しかったんだな。
それは「眩しい虚無」かもしれないけど。


日車は虎杖の中に、尊ぶべきものをみた。だから領域を解いたんだと思う。
それも、あえて殴られることになるタイミングで。

「無罪だ。君に罪はない」
それを誰かに言って欲しかった。
伏黒とか、脹相兄ちゃんとかの、身内以外の、ただの他人に言って欲しかった。

なのに虎杖は変わらず「……でもやっぱり俺のせいだ。俺が弱いせいだ」って言い張るんだよね。
もう「……そうか」って言うしかないよね。

人の弱さをみつめ続けて、疲れ切って、うんざりしてた日車だけど、虎杖には自分の弱さを認める強さなんか、あって欲しくなかったんだと思う。
そうじゃないから、虎杖は自分のものではない罪を償い続けてしまうので。


日車が「100点をやる」って言いだして、これ試験かなにかだったの? って一瞬なったけど、そういえば、日車の100点で死滅回游にルールを追加したい、って話だったね、元々は。
でも、100点満点だ、って意味もあるんじゃないかな……。


虎杖を椅子に座らせて、自分も対面に座って、目線を合わせてちゃんと話し合おうって姿勢をみせた日車。

「自分の意志で人を殺めたことはあるか?」
「…あるよ」
「……そうか、最悪の気分だったろう」
虎杖に同情した日車だけど、登場時点では「気に入らない奴をブチ殺したことはあるか? 思っていたより気持ちがいいぞ」って言ってるんだよね。

日車は「気持ちがいい」って思える人になりたかったのかな。
あの裁判の場にいた人を、法もへったくれもなく一方的に命を奪ってしまった自分は、元からそういう人間だったんだよ、って思い込みたかったのかな。

でも、虎杖の真摯なまなざしの前では「最悪の気分だった」と自白するしかなかった。
なんだか、神の赦しを請うために懺悔する人のようにみえてきた。


虎杖と日車が敵対しなくて本当に良かったと思ってるんだけど、それはそれで死亡フラグっぽいのがなんとも……。